この親にしてこの子あり

いままで、叔母は暴力を振るったりする叔父が嫌いだから家を出て行くと言い出したんだと思ってたんだけど。
そうじゃない。
葬儀に出てわかったよ。
叔母は、あんなにいっぱい泣いていたもの。
そして母親から、叔母はあの家を出て、叔父とふたりで暮らしていこうと思っていたと聞いたもの。
じゃあなぜ出ようとしたの?
……原因は叔父の両親だ。
僕が葬儀で見ただけでも、叔父の母親の言動が異常だった。
思ったことをなんでもすぐ口にする、叱られると逆上し、大声でがなる。
いやまあどんだけひどかったかって言うと。
葬儀の席で「これからワシはどうやって生きていけばいいの」「ワシもこのまま一緒に死にたい」と泣く、喚く。
そう思っても口にしちゃいけない、叔母が悪者になってしまうじゃないか。
そうかと思うと、トイレに行き「今朝から便がちっとも出ん」とケロリ。意味がわからない。
あまりにも子供過ぎる言動の続く叔父の母親に、従妹や叔母が一喝すると「うるさいわ、わかっとるわ、ワシばっかなんでそんなに言われにゃならんのだ」と逆ギレ。
もう、本当に自分のことしか考えられないんだな、この人たちは。
見苦しかった。本当に。
通夜ではもっとひどかったらしい。
ご老体であちこちガタがきてるだろうから失禁してしまうのも致し方ないのだが、それを口に出すなと。
「ちびってまったわぁ」とか、家族みんな恥ずかしいだろ……。
そういうことすらも平気で口にできるのがすごい。
さらに、通夜の席で「もう眠なってまったわ、ワシ帰りたい」
……おい、自分の息子のお通夜だぞ。
結局、叔父の両親は蔡場に泊まることなく家に帰っていったそうだ。
叔父がものすごく可哀想に思えた瞬間だった。
そして、家族に無関心で、自分の体裁と近所の評判ばかりを気にする叔父の父親。
親戚や葬儀を手伝いにきた近所の人を接待してまくっていた。
「ええよ、あの人はうちらより親戚や近所の人が大事なんやもん」と従妹がこぼしていた。
僕の父親は帰り際、僕にこう言ったんだ。
「あんな家やったから、叔父さんがああなったんかなぁと思うともう可哀想でしょんないわ」
叔父は1人っ子だった。
叔父の両親の異常さのすべてが、叔父に投影されている。
子供は親を選べない。
あの家に生まれたことが、叔父の不幸の始まりだったのか。
そして、そこへ嫁いだ叔母。
今までは従姉妹たちが家にいたからまだ頑張れたろう。
しかし、従姉妹はみな家を出た。
叔母がそこに居続ける理由がなくなった。
だから家を出ると言い出した。
しかし、叔父とふたりで住んでもいいと考えていたのは、叔父には伝わらなかったのだろう。
叔父は、娘たちに、妻に、見捨てられたと思ったのだ。
境界例にとって見捨てられ不安はなによりの恐怖だから。
いろいろなことが重なって、叔父は自ら命を絶った。
病死や事故死は、ある程度諦めがつく。
しかし、自殺は……未然に防げなかったのかなどと行き場のない思いが巡る。
ACや境界例は世代間を伝達されてゆくもの。
そして日本は精神疾患に関して正しい知識を持っている人が少ない。
自覚できなかったまま、叔父のすべては終わってしまった。

AC

Posted by CINDY