走れ

世界の終わりが近づいてくる。
ジプシーの楽隊たちと共に、海を越えて山を越えて空を飛んで。
華やかな調べと共に、どんどん、どんどん近づいてくる。

そしてしあわせと名のつくものは。
音もなく、離れていく。
楽隊たちに追われるように、引く波に似て。

現実を見てはいけない、見れば死んでしまうから。
だから、いまはなにも言わない。
ただ生きるために自分をごまかし、夢を見て、現を忘れなければ。
迫り来る世界の終わりと、決して目を合わせないように。
生きる自由はあっても、死ぬ自由はこの国にはないのだから。

さあ。
目を閉じ、息を止めたまま。
走れ。
夢の中を。
ただ、生き続けるためだけに。

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Posted by CINDY