あたり一面から、秋の虫達の声がする。
そこにいた頃は眠れぬ程にうるさく感じられた虫たちの声が、今の僕には天国から降ってくる音のように聞こえる。
それでも、灯りのない夜に僕を包み込む天国の音は、耳に痛い。
僕はしばらく、そこには帰っていなかった。
僕がほんの少しいない間に、そこはずいぶん変わっていたようだった。
猫達は僕のことを忘れてしまっている。
僕もどこに何があったのか忘れてしまっている。
そう、僕はかつて、確かにそこにいた。
いたはずだった。
けれど、時間の経過に伴う記憶の風化は否めない。
僕はなぜだか少し悲しくなった。
……あいかわらずそこには誰もいない。

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Posted by CINDY