東へ

親の乗っているトラックが2トンから3トン半になってから2年ほど経っている。
今日、初めて、乗った。
満載の商品とともに家を出たのは夜中1時。トラックは背が高くて気持ちがいい。
すごくたくさんの、トラック。夜はトラックが走る時間。まわりはすっかりトラックだらけで、一般車はずいぶんと少なくなっていた。
R19をどんどん上っていく。僕が知らない町を、山を、たくさん越えていく。
とても標高1000mほどある山の上を走っているとは思えない。トラックに乗っているからだと、親は言う。これが一般車なら坂を走っていると感じるのかもしれない。
この日僕が初めて体験したのが、分水嶺越えだった。ふたつの川が山の天辺でくっついている、その接点。
分水嶺を越えると、川は逆方向に流れ出す。トンネルを越えると、今まで川を上っていたつもりが、いつのまにか逆に下っていた。
僕がいつも見ていたあの大きな川が上流に行くとこんなに細いのかと驚いていた上にさらに分水嶺。
親はこれから行く先まで荷物を運ぶときに毎度毎度体験しているのかと思うと、なんだか不思議な気分になった。
こうやって日々日本全国をまわり、いろんなことを知っていくのだろう。これも、トラック乗り40年のキャリアというものなのだろうか。
山の中で少し休憩し、再び走り出すころには空はすでに白くなっていた。
親はどんどん近道を走っていく。トラック乗りは近道を知っていてナンボのもので、いかに高速道路を使わず下道で早く運ぶかがカギなのだとか。
そしてある町の中に入ったとき、僕は諏訪湖を見た。
それまでの山道やトラックが通るのも厳しいような狭い町並みから一変して、急にひらける視界。
濃い朝もやが対岸の景色を覆っているためか、まるで海を眺めているようにも見える。<実はもやではなく雲だったらしいが
今まで走ってきた山の景色からは想像もつかない。
貴重な体験をいくつも重ねたのち、僕は中央線の某駅前でトラックを降りた。
親はこれから仕事。お盆も関係ない。みんな、頑張っている。つらいのは僕だけではないから。
普通電車でゆらゆらと揺られていく。トラックから横目に見えた線路の上を、今度は電車で走っている。
知らない土地へと、ゆらゆらと。それはまるで、小さな旅のような。
……着いた先で、僕は何を見るのか。

misc

Posted by CINDY