親が泣いた

……親に泣かれた。
いままで、親が死んだときに涙を流せるかどうか、ずっと疑問に思っていた。
でも、いまなら、流せるような気がする。

親は、幼い僕を放置していたことを、後悔していた。
僕らがまだ幼かった頃、親の会社は世間様とは景気が逆転していた。親は僕らのために必死になって働いていた。
そんな中、保育園の頃から既に問題児であった弟と比べて比較的「よいこ」で聞き分けのよい僕は、手がかからないため、あまりとやかく言われなかった。
でも、僕は、弟ばかりが家族から親戚から可愛がられる姿を、ずっと見てきた。
家族の目はいつも、ワガママ放題で皆を振り回す弟に向けられていた。
僕は、ずっと我慢してきた。
「お姉ちゃんだから我慢しなさい」と、イヤと言うほど聞かされてきた。
たまにワガママを言ってみても、誰も相手にしてくれなかった。
孤独……そして早すぎる親離れ。気づいたときには、お父さん、お母さんという単語をほとんど口にしなくなっていた。
例えるならば欠食児童並み、いや、それを凌駕するほどの愛情不足に陥っていた僕は、家族からもらえない愛情を外部からもらおうとした。
結果、親元にいる時間は、どんどん少なくなっていった。
小学校高学年の頃からすでに、親のいうことを聞かなくなってきていた。
友人たちのためにいろいろ力を尽くすことはあっても、親のため、ということはなかった。
僕がどれほど困ったとしても、親は何もしてくれないと思っていたから……実際は、その逆なのに。

僕の躾がなっていないのは、その所為。
僕が大人になればなるほど大きな問題を次々に起こしていくのは、その所為。
全て親が悪いわけじゃない。
親のそばにいなかった僕が悪いのだから。
親のそばで学ぶべきことを何も学んでいない、僕が悪いのだから。
僕が問題を起こしたときは、親が責められるべきではない。
僕が責められるべきなのに。
それでも世間は、親を責めるのだ。

親も苦労をしてきた。それは、僕とは比べ物ににならないほどに。
これ以上親に迷惑をかけ続けてはいけないと、家を出ようとしている旨を告げた。
親は、また泣いた。
どこへいっても子供のことは心配だ。親である以上、それは当然だから、と。
僕が苦労する姿を想像しては、泣いていた。
……いままで、心配などされたことはないと思っていた。
そうではなかった。

AC,blue

Posted by CINDY